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ウルトラファインバブルの解説を読んでいると、決まって出てくる言葉があります。
「ゼータ電位」。そして「泡はマイナスに帯電している」という説明です。
なんとなく分かった気になりますが、そもそもゼータ電位とは何の値で、どこまでが確かめられていることなのでしょうか。
まず結論
ゼータ電位とは、水中の粒子と水が相対的に動くときの境目(すべり面)における電位のことです。粒子どうしが反発しあって分散したままでいられるかどうかを見る指標として、コロイドを扱う分野で広く使われてきました。
ウルトラファインバブルについては、マイナスの値を示す測定結果が多く報告されています。ただし押さえておきたい点が2つあります。
一つは、なぜマイナスになるのかについて、いくつもの説が並立しており定説が確立していないこと。もう一つは、ゼータ電位が直接測れる量ではないことです。実際に測るのは電場をかけたときの動きやすさで、そこから理論モデルを介して電位に換算しています。
つまりこの指標は有用ですが、「マイナスだから◯◯が起こる」と一足飛びに結論できるほど単純ではありません。
◆この記事でわかること
- ・ゼータ電位とは何の値なのか
- ・電気二重層という考え方
- ・どうやって測っているのか、そして「直接測れない」とはどういうことか
- ・ウルトラファインバブルがマイナスを示す理由の諸説
- ・pHやイオン濃度で値が変わること
- ・「マイナスだから汚れに吸着する」という説明の位置づけ
◆ゼータ電位とは何か
水中に細かい粒子が散らばっている状態をコロイドといいます。牛乳や墨汁、泥水などが身近な例です。
こうした系では、「粒子どうしがくっついて大きな塊になるか、それとも散らばったままでいるか」が重要な性質になります。塗料であれば沈殿するかどうか、食品であれば分離するかどうかに直結します。
この「散らばったままでいられるか」を見る指標の一つがゼータ電位です。
粒子どうしが同じ符号の電気を帯びていれば、互いに反発します。反発が強ければ、ぶつかっても合体しにくい。ゼータ電位の絶対値が大きいほど、分散した状態が保たれやすいと考えられています。
◆電気二重層——粒子のまわりにできる層
では、なぜ「粒子の表面の電位」ではなく「すべり面の電位」なのでしょうか。ここに、この概念のややこしさと面白さがあります。
粒子の表面が何らかの理由で電気を帯びると、水中にあるイオンのうち反対の符号を持つものが引き寄せられます。その結果、粒子のまわりには次のような構造ができます。
- ・内側の層——粒子表面に強く引きつけられ、ほぼ一緒に動くイオンの層
- ・外側の層——ゆるく引きつけられ、水の流れとともに動きうるイオンの広がり
この二層構造を電気二重層と呼びます。粒子の電気的な性質は、粒子そのものだけでなく、まとわりついたイオンまで含めて決まるということです。
◆「すべり面」で測る理由
粒子が水中を動くとき、内側の層は粒子と一緒に移動します。一方、外側のゆるい部分は置いていかれます。
この「一緒に動く部分」と「置いていかれる部分」の境目が、すべり面です。
他の粒子と近づいたときに実際に効いてくるのは、粒子表面そのものの電位ではなく、この境目における電位のほうです。だからゼータ電位が指標として使われます。
ただし、すべり面は物理的にくっきりした境界ではなく、概念上の面です。ここは、この指標を扱ううえで意識しておきたい点です。
◆どうやって測るのか——「直接測れない量」である
測定の考え方はシンプルです。
試料に電圧をかけると、電気を帯びた粒子は電極に向かって動き出します。この動きを光の散乱などで捉え、どれくらい動きやすいかを測ります。
そして、その動きやすさから電位へと換算します。
ここが重要です。装置が実際に観測しているのは動きやすさであって、電位そのものではありません。換算には理論モデルが使われ、モデルの前提が実際の系に合っているかどうかで結果は変わりえます。
気泡は固体の粒子と違い、表面が変形したり、内部の気体が動いたりする可能性があります。固体粒子を前提に組まれたモデルを気泡にそのまま当てはめてよいのか——この点は慎重に扱われるべき論点として残っています。
測定全般の難しさについては スペック表の数値をどう読むかをまとめた記事もあわせてご覧ください。
◆なぜマイナスを示すのか——諸説あります
ここが、この記事でいちばん誠実に書きたい部分です。
気泡の中身は気体で、それ自体が電気を帯びる材料ではありません。それなのに、水中の気泡はマイナスの値を示す測定結果が多く報告されています。なぜそうなるのか。
| 提案されている説明 | 考え方 |
|---|---|
| イオンの吸着 | 水がわずかに分かれてできるイオンのうち、マイナス側が気体と水の境目に集まりやすいのではないか |
| 水分子の向きがそろう | 境目付近で水分子の向きに偏りが生じ、それが電気的な偏りとして表れているのではないか |
| 不純物の吸着 | 水中に含まれる微量の成分が境目に集まり、その性質が反映されているのではないか |
| 複数の要因の重ね合わせ | 上記が同時に働いている可能性 |
率直に書きます。これらのうちどれが主要因なのか、決着はついていません。気体と水の境目という、目に見えないうえに測りにくい場所で起きていることであり、解明が進められている段階です。
したがって、この記事では「マイナスに帯電する」と言い切らず、「マイナスの値を示す測定結果が多く報告されている」という書き方をしています。回りくどく感じられるかもしれませんが、現状に即した表現はこちらです。
◆値は条件で変わる
ゼータ電位は、粒子に固有の定数ではありません。まわりの水の状態によって変わります。
| 条件 | 一般に知られている傾向 |
|---|---|
| pH(酸性・アルカリ性) | 酸性側に傾くほど、マイナスの度合いが小さくなる方向へ動くことが多いと報告される |
| 溶けている塩の量 | イオンが多いほど電気二重層が圧縮され、ゼータ電位の絶対値は小さくなりやすい |
| 水温 | 粘性やイオンの動きやすさに関わるため、測定条件として管理が必要 |
| 水に含まれる成分 | 界面に吸着しうる成分があれば、値に影響しうる |
つまり「この製品のゼータ電位は◯◯」と一つの数値で語れる性質のものではありません。地域の水質、水温、使い方によって条件は変わります。
この記事で具体的な数値を挙げていないのは、そのためです。条件を伴わない値は、比較材料として機能しにくいと考えています。
◆「マイナスだから汚れに吸着する」は、どこまで言えるのか
よく見かける説明があります。「泡がマイナスに帯電しているから、プラスの汚れを引き寄せる」——という筋立てです。
結論から書きます。この説明は、仮説の域を出ていません。
理由を3つ挙げます。
- ・① 実際の汚れは皮脂・タンパク質・鉱物由来の成分などが混ざった複合物で、一律にプラスの電気を帯びているわけではない
- ・② 水中では汚れの側にも電気二重層ができ、両者の相互作用は単純な引き合いにはならない
- ・③ そもそも、ウルトラファインバブルによる洗浄の作用機序を定量的に評価した研究は限られており、メカニズムが確定した状態にはない
「ありえない」と言いたいのではありません。「確かめられた説明として断定できる段階ではない」ということです。
分かりやすい説明は魅力的ですが、分かりやすさと確からしさは別物です。効果への期待値の置き方については 「効果なし」と言われる理由を検証した記事で整理しています。なお効果の感じ方には個人差があります。
◆いま言えること・言えないこと
| 言えること | 言えないこと |
|---|---|
| ゼータ電位は分散のしやすさを見る指標として広く使われている | ゼータ電位の値が製品の優劣を示す |
| 水中の気泡はマイナスの値を示す測定結果が多く報告されている | なぜマイナスになるのかの確定した理由 |
| 値はpHや溶けているイオンの量で変わる | 条件を問わず成り立つ一つの数値 |
| 同符号の帯電は反発を生み、合体しにくくする方向に働く | その反発が洗浄の作用機序を説明しきる |
ウルトラファインバブルは、比較的新しい研究領域です。分からないことが残っているのは、技術の欠点ではなくいま進んでいる分野であることの表れだと考えています。
◆よくある質問
Q. ゼータ電位が高い製品ほど良いのですか?
そうは言えません。値は水質・pH・水温といった条件で変わるため、条件を揃えずに製品間で比べても意味をなしません。また、ゼータ電位は分散のしやすさを見る指標であって、性能の等級ではありません。
Q. 家庭でゼータ電位を測ることはできますか?
できません。専用の測定装置が必要です。そのうえ測定値は理論モデルを介して算出されるため、条件と手法が示されていない値は解釈が難しくなります。
Q. 「マイナスの泡が汚れを吸着する」という説明は間違いですか?
間違いだと断じるものではありませんが、確かめられた説明として断定できる段階ではありません。実際の汚れは複合物であり、水中での相互作用も単純ではないためです。
Q. 水道水の水質によって値は変わりますか?
変わりうる要素です。溶けているイオンの量やpHは地域によって差があり、これらはゼータ電位に関わる条件として知られています。一律の数値で語れる性質のものではありません。
Q. なぜフレスカはゼータ電位の数値を出していないのですか?
条件によって変動する値であり、条件を伴わない数値は比較材料として機能しにくいと考えているためです。仕様や設置条件については個別にお答えしています。
◆まとめ
✔ ゼータ電位=粒子と水が相対的に動くすべり面での電位。分散しやすさの指標
✔ 粒子のまわりには電気二重層ができ、電気的な性質はイオンまで含めて決まる
✔ 実際に測っているのは動きやすさで、電位はそこから換算した値
✔ 気泡に固体粒子前提のモデルをそのまま当てはめてよいかは、慎重に見るべき論点
✔ ウルトラファインバブルはマイナスの値を示す測定結果が多く報告されている
✔ ただしなぜマイナスになるのかは諸説あり、定説は確立していない
✔ 値は pH・イオン量・水温で変わる。一つの数値で語れる性質ではない
✔ 「マイナスだから汚れに吸着する」という説明は仮説の域を出ていない
泡のサイズによる性質の違いは 3つの泡の違いを整理した記事で確認できます。
ウルトラファインバブルフレスカは、住宅の水道元栓に設置する全館型のウルトラファインバブル発生装置です。水圧を利用して気泡を生成する構造のため電源が不要で、消耗品の交換も前提としていません。
分かっていることと分かっていないことを含め、仕様について確認したい点があればお答えします。ご自宅の水圧や配管によって設置条件が変わりますので、導入前の確認も承っています。
◆参考
- ・ISO 20480-1:2017「ファインバブル技術-ファインバブルの使用及び測定の一般原則-第1部:用語」(2017年6月22日発行 / ISO/TC 281)
- ・JIS B 8741-1:2019(同名の日本産業規格)
- ・一般社団法人ファインバブル産業会「ファインバブルの作用と活用」
- ・安田啓司「ウルトラファインバブルの特性と応用」真空 66巻11号
- ・久保和弘「ファインバブルの機能特性」日本家政学会誌 71巻2号
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